市民ラジオのルーツ

2013.6.2更新

 

 

 日本の市民ラジオは、米国のClass C(ラジオコントロール)及びClass D(無線電話)の「Citizens Radio Service」にならい1961年(昭和36年)に発足しましたが、これには前史ともいうべき歴史があります。

 米国では1949年(昭和24年)に、個人が利用する無線通信システムである460-470Mcの「Citizens Radio Service」が制度化されましたが(下記参考1参照)、当時の日本では、この米国の「Citizens Radio Service」を「市民ラジオ」と呼んでいました。1950年(昭和25年)、電波監理委員会(総理府の外局、1950年6月に電気通信省の外局である電波庁が改組)は、この米国の「Citizens Radio Service」にならい簡易無線局を制度化しました。昭和25年6月にそれまでの無線電信法にかわり電波法が施行され、電波の利用が国民に解放されましたが、簡易無線局の制度化はその具現化とされました。当時の日本では、この簡易無線局を「市民ラジオ」と呼び 、この簡易無線局が日本における最初の「市民ラジオ」であると言われております。「市民ラジオ」の語源はこの「Citizens Radio Service」です。ちなみに総務省が定めている簡易無線局の種別コードは現在でも「CR」です。官報に掲載された当時の電波監理委員会告示及び郵政省告示によれば、1952年(昭和27年)末までに簡易無線局が延べ123局(昭和27年6月1日に一斉再免許された局等27局を含む)免許されています(下記表1参照)。

 当時の簡易無線局の制度は下記参考2のとおりです。簡易無線局の無線設備は型式検定の対象にされておりましたが、当時はまだ型式検定に合格した無線設備はなく (最初の型式検定合格は昭和27年12月11日、下記表2参照)、自作の無線設備で免許を受けることも可能でありました。簡易無線局の操作には、型式検定に合格した無線設備であれば、特殊無線技士(簡易無線電話)が、そうでなければ第二級無線通信士以上の資格が必要でした。昭和25年から26年にかけての時代は、まだアマチュア無線が再開される前であったため、アマチュア局の開局を目指す人たちの大きな関心を集めたようで、このころの「CQ Ham Radio」、「ラジオ技術」、「無線と実験」、「電波科学」などの無線雑誌には、この市民ラジオ(簡易無線局)に関する記事が多数掲載されました(参考3参照)。もっとも昭和27年にアマチュア無線が再開されたため、市民ラジオ(簡易無線)に対する関心は急速に失われたようです。460MHz帯簡易無線局は、その第一号が早稲田大学に免許されています(参考4参照)。

 さて、米国の「Citizens Radio Service」は、当時の技術水準では460-470Mc帯は周波数が高すぎたようで、あまり一般市民に普及はしなかったようであり、普及させるためにはもっと低い周波数帯の使用が必要とされたようです。1958年(昭和33年)、米国では「Citizens Radio Service」 に無線電話用として「Class D」が追加され、当時の米国ではアマチュアバンドであった26.96-27.23Mcに22ch(26.965-27.225Mc)が 割り当てられました。また翌年1959年(昭和34年)に27.255Mcが追加されて「Class D」は23chとなりました。この「Class D Citizens Radio」を「Citizens Band Radio」と呼ぶようになったようですが、FCC(米国連邦通信委員会)が正式に規則の中で「Citizens Band Radio Service」という語を採用したのは1977年(昭和52年)です。
 なお、ラジオコントロール用の「Class C」は1952年(昭和27年)に27.255Mc1波で制度化されておりますので、ラジオコントロールではありますが、「Citizens Radio Service」に27MHz帯が初めて割り当てられたのはこのときです。「Class D」が制度化されたときに、「Class C」には5波(26.995、27.045、27.095、27.145、27.195Mc)追加されました。

 日本では前述のように簡易無線局を制度化していましたが、無線機が高価であったり大型であったことから当初期待したような個人や個人事業者、小規模事業者などには普及せず、大企業や官公庁などによって利用されていました。このため1961年(昭和 36年)、郵政省電波監理局(1952年8月に電波監理委員会が改組)は、米国のClass CとClass Dの「 Citizens Radio Service」にならい、個人や個人事業者、小規模事業者などの通信ニーズを満たすべく、26-27Mc帯の市民ラジオ(無線電話及びラジオコントロールのための簡易無線局)を制度化しました。

 

 

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参考1 米国のCitizens Radio Serviceの概要

施行時期:
  1949年7月1日
目的:
  無線電話、無線電信、遠隔制御
免許の対象:
  18才以上の米国市民
免許の有効期間:
  5年
周波数:
  Class A:460-462Mc(固定局のみ)、462-468Mc
  Class B:462-468Mc
送信機の終段真空管の最大陽極入力電力:
  460〜462Mc 50W
  462〜468Mc 10W
  468〜470Mc 50W
周波数許容偏差:
  Class A:±0.02%以内
  Class B:帯域幅を含み465Mcの±0.4%以内
変調方式:
  振幅変調、周波数変調、位相変調
通信方式:
  複信方式、単信方式
伝送方式:
  電話、電信、印刷電信、ファクシミリ
型式検定:
  FCCによる型式検定の対象(型式検定は任意)
運用できる者:
  免許人によって許可された者
保守、調整を行うことができる者:
  1級または2級通信士の資格を有する者
電信の手送り送信の運用ができる者:
  無線電信通信士以上の資格を有する者
局の識別:
  通信の初めと終わりに呼出符号を送信、通信が10分以上にわたるときには10分毎に送信
局の移動範囲:
  合衆国内であれば陸上、上空、海上で可能
通信の内容:
  放送や他者に通信サービスをすることや公衆通信との接続は禁止

 

 

参考2 発足当時の簡易無線局の制度の概要

簡易無線局:
  簡易無線通信業務(簡易な無線通信業務であって、アマチュア業務に該当しないもの)を行う無線局
免許の有効期間:
  3年(当初の免許の有効期限は昭和27年5月31日)
簡易無線局の無線設備:
  型式検定の対象
操作に必要な資格:
  特殊無線技士(簡易無線電話)(型式検定に合格した無線設備)
  第二級無線通信士以上の資格(型式検定を受けていない設備)
 

周波数 空中線電力(規格電力) 周波数の許容偏差 変調方式
154.53Mc、460-470Mc 30W以下 0.02%(水晶発振が前提) AM、FM
463Mc(個人用)

467Mc(法人用)

3W以下 0.4%(自励発振が前提) AM、FM

注 昭和25年6月1日に施行された電波法に基づき、最初に施行された電波監理委員会規則(同年6月30日公布・施行)では、簡易無線業務の局の周波数は465Mcのみのようです。その後、電波監理委員会規則が同年12月1日に改正となり、周波数が463Mc及び467Mc(空中線電力3W以下)、別に公開する周波数(空中線電力30W以下)とされ、この別に公開する周波数は460-470Mc及び154.53Mcでありました。12月1日の改正までに、簡易無線業務の局は免許されていませんので、12月1日の改正後の制度を発足時の簡易無線局の制度としました。

 

 

 

参考3  市民ラジオ(簡易無線局)が掲載された雑誌記事の例

 

 

無線と實験 1950年8月 臨時増刊 個人通話用市民ラジオ(下記参照)

無線と實験 1951年7月号 465Mcへの道

無線と實験 1951年8月号 465Mc簡易無線トランシーバーの製作

ラジオ技術 1950年10月号 465Mc発振器

ラジオ技術 1950年12月号 465Mc送信機の製作

電波科学 1951年6月号 シティズンズ・ウェーブ465Mcウォーキートーキーの作り方

電波科学 臨時増刊号(S26.10.1)ラジオ応用制作465Mcシティズンバンドの実験

CQ Ham Radio 1950年9月号 465Mcトランシーバー

CQ Ham Radio 1951年1月号 465Mc市民ラジオ用送信機/受信機アンテナの実験


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無線と實験 臨時増刊 電波三法実施にともなう・・・・・これからのラジオ 家庭用受信機対策 個人通話用市民ラジオ 昭和25年8月20日 誠文堂新光社発行 定価150円

個人通話用の市民ラジオ

市民ラジオ(465Mc)に必要な基礎知識・・・・極超短波の傳播 市民ラジオの許可範囲 465Mcの傳播特性

市民ラジオ用部分品とその回路 主要部品 配線 極超短波用回路方式各種

465Mcに適應した極超短波用眞空管の撰定 發信 變調 檢波(整流) 搴ミ

Ctizens Band 通信装置 はしがき 送信機 〃製作 受信機 〃製作

携帯用トランシーバーの製作 回路 部品 組立 配線 調整

UHF用受信機製作の手ほどき 超再生檢波器の理論的考察

個人通話用市民ラジオの製作と使用法 はしがき 回路の構成 各部品について(マイク整合兼結合変圧器・変調用変圧器・送受転換器) 組立 配線 955p.p.の回路 組立 配線 調整 発振判別用ランプ又はネオン管 波長測定用レッヘル線

UHFの知識

市民ラジオ設計のキーポイント同調回路、眞空管の使用限界 VHF、UHF同調回路 (L.C同調回路とその限界 並行線同調回路 同軸管回路 回路素子としての分布定数回路 分布定数回路の同調法 分布定数回路の結合法) VHF、UHF用眞空管(入力アドミッタンス、等価雑音抵抗)

 

 

 

参考4 日本で初めて免許された簡易無線局

 

 

 

参考5  1960年当時の米国のCitizens Radio Service

Class

局種

用途

電波型式

終段陽極最大入力

周波数

周波数許容偏差

A

固定局(FX)、基地局(FB)、陸上移動局(LM)

連絡用

A3F3

60W

462.55、462.60、462.65、462.70、
462.75、462.80、462.85、462.90、
462.95、463.00、463.05、463.10、
463.15、463.20、464.75、464.80、
464.85、464.90、464.95、465.05、
465.10、465.15、465.20、465.25、
465.30、465.35、465.40、465.45、
465.50、465.55、465.60、465.65、
465.70、465.75、465.80、465.85、
465.90、465.95、466.00、466.05、
466.10、466.15、466.20、466.25、
466.30、466.35、466.40、466.45Mc、
48波

3W以下:0.001%(FX,FB)、0.005%(LM)

3W超:0.001%(FX,FB)、0.001%(LM)

B

陸上移動局

連絡用

A3F3A1F1

5W

465Mc1

3W以下:0.5%

3W超:0.3%

C

陸上移動局

無線操縦用

A1F2

5W

26.99527.04527.09527.14527.19527.255Mc6

0.005%

 

D

陸上移動局

連絡用

A3

5W

26.96526.97526.98527.00527.01527.02527.03527.05527.06527.07527.08527.10527.11527.12527.13527.15527.16527.17527.18527.20527.21527.22527.255Mc23

0.005%

 

表1 昭和27年(1952年)末までに免許された簡易無線局(再免許されたものを含む)

 

表2 昭和27年(1952年)以降型式検定に合格した簡易無線局の無線設備の機器

検定合格/変更承認の年月日

検定/承認番号

申請者の名称

機器の名称及び型式

機器製造者の名称

電波の型式

検定周波数

昭和27年12月11日

5051号

沖電気工業株式会社

1B型携帯型簡易無線電話機

沖電気工業株式会社

 

 

昭和27年12月25日

5052号

国際電気株式会社

Handie Talkie Type KH-811

国際電気株式会社

 

467Mc

昭和30年12月27日

5053号

沖電気工業株式会社

UFB-1B型極超短波簡易無線電話機

沖電気工業株式会社

 

467Mc

昭和31年9月25日(変更)

5053-1号

沖電気工業株式会社

UFB-1C型極超短波簡易無線電話機

沖電気工業株式会社

 

467Mc

昭和32年12月10日

5054号

沖電気工業株式会社

OKI-FB型簡易無線電話機

沖電気工業株式会社

 

467Mc

昭和33年2月3日(変更)

5054-1号

沖電気工業株式会社

OKI-FB-1型簡易無線電話機

沖電気工業株式会社

 

467Mc

昭和33年10月20日

5055号

松下通信工業株式会社

CM-101型極超短波簡易無線電話装置

松下通信工業株式会社

 

467Mc

昭和34年2月27日

5056号

帝国電波株式会社

FI-30クラリオン・エコー極超短波簡易無線電話機

帝国電波株式会社

 

467Mc

昭和34年5月11日

5057号

帝国電波株式会社

FI-30B型クラリオン・エコー極超短波簡易無線電話機

帝国電波株式会社

A3

467Mc

昭和34年5月11日

5058号

沖電気工業株式会社

OKI-FB-1型極超短波簡易無線電話機

沖電気工業株式会社

A3

467Mc

昭和34年5月15日

5059号

松下通信工業株式会社

CM-101型極超短波簡易無線電話装置

松下通信工業株式会社

A3

467Mc

昭和34年7月14日

C第5060号

沖電気工業株式会社

OKI-FB-4型 極超短波簡易無線電話機

沖電気工業株式会社

A3

467Mc

昭和34年7月14日

C第5061号

沖電気工業株式会社

OKI-FB-3型 極超短波簡易無線電話機

沖電気工業株式会社

A3

467Mc

昭和35年2月9日(変更)

C第5061-1号

沖電気工業株式会社

OKI-FB-3A型極超短波簡易無線電話機

沖電気工業株式会社

A3

467Mc

昭和34年8月3日

C第5062号

松下通信工業株式会社

CM-121型 極超短波簡易無線電話装置

松下通信工業株式会社

A3

467Mc

昭和34年10月22日

C第5063号

国際電気株式会社

XH-751型 携帯用超短波簡易無線電話装置

国際電気株式会社

F3

154.45Mc、154.53Mc、154.61Mc

昭和35年7月23日(変更)

C第5063-1号

国際電気株式会社

XH-751-1型 携帯用超短波簡易無線電話装置

国際電気株式会社

F3

154.45Mc、154.53Mc、154.61Mc

昭和35年7月23日(変更)

C第5063-2号

国際電気株式会社

XH-751-2型 携帯用超短波簡易無線電話装置

国際電気株式会社

F3

154.45Mc、154.53Mc、154.61Mc

 

 

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